法律が変わり、18歳で成人を迎えるということになりました。ちょっと昔、江戸時代ですと庶民も男子は15歳くらいで月代(さかやき)をそり、女子はもうちょっと早く眉を剃ったりお歯黒にしたり。名前を大人の名前に変えたりして、子供時代は終わるのです。
私の子供時代は、大人たちは敗戦から何かを学んだ人も多く「これからの子供達には、そうした苦労はさせたくない、戦争とは無関係に、科学技術や美術、世界に羽ばたく人を育てたい」明るい未来を想像し、子どもに愛情を育てる多くの人達に囲まれて育ちました。その分、いろいろ口やかましかったりしましたが、童話や絵本、学校の教科書、漫画、「子どもにはこれが一番いい」ものをそれぞれの技術で最高に作る、そういう文化があったのです。
現在、皆様になにか出来ることがあるかと思うと虚しくなります。便利で自由を獲得するためのコンピューターも、結局は、作家のミヒャエルエンデの「モモ」でいうところの灰色の人たちの手先となり、皆さんのエネルギーはどこかへ吸い取られていく。
この柄は古九谷の焼き物をベースに作りました。江戸時代の石川県、1650年代に始められた、色柄にとても特徴のある焼き物は大変美しく、江戸庶民文化に慣れている私にとってはとても外国風に感じます。それはなんと50年で急に絶えてしまいます。キリシタンとの交易の問題、加賀藩の問題。どれも文章化されないところですが、ひっそり残してきた人々による古九谷の焼き物を研究すると当時の大事件が目の前で繰り広げられるような、ダイナミックな江戸時代、「世界の中の日本」、その現場に行ったことがあるような感覚になるのです。
言語化されてない日本美術史の謎、そのまま振袖にいたしました。過去にあった事件の中に入って欲しいという願いをこめました。
ケータイを捨てて街を出よう。
見知らぬ人と語り、歌おう。
何にも役に立たない人になろう。
無駄で意味のないことに血道をあげよう。
無茶なことだけをやっていこう。
後ろ向きに歩くのだ。
そうやって、人間になろう。
浴衣から始まったルミロック。吉原にアトリエを構え15年が経ちました。着物図案制作のノウハウをいかし、画一的になりがちな振袖の世界を再考。本格的な振袖の第一歩として、17世期に作られた、古九谷にインスパイヤされた振袖を制作いたしました。
今回振袖として制作した「古九谷」のモチーフは、1650年ころ石川県の加賀で制作された焼き物で、不思議な柄とパンチのある配色、独特の世界が魅力的です。昔の職人は、文様に意味がなければ書けません。何かをイメージした全体の緊張感ある構図は、現在もインパクトをもつ、力のある文様です。それを素直に配置し、着装した時を考え制作いたしました。加賀の豊穣な文化を反映したその柄は、振袖にふさわしいものと思います。
(この図像は、古九谷文様を着物図案に起こし直したものです。)
古九谷を意識したのは、もう30年くらい前でしょうか、私が代々木の図案工房に勤めていたときです。芸大卒の、不思議なエネルギーを持った同僚がしきりと「ともかく、古九谷はほかとはちがうんだ」と言っていました。印象に残る事でした。
そのことはしばらく忘れていたのですが、5年ほど前金沢にて販売会をした際、黄色と緑と紫のコントラストに引かれて、いくつか復刻版のお皿を買って帰りました。
ルミロックで振袖をつくるんだったら、あの色しか無いと重い、資料を集めて図案を描きました。なかなかハードルが高かったですが、力量は途中でも良いと思い仕上げました。
古九谷についてもうすこし調べようとして、和楽の特集記事を読みました。結論を明確に、猛烈な勢いで語られている・・・戦国時代を生き抜いた前田利家の文化戦略について、石川県立美術館の学芸員、村瀬博春先生の強い言葉がそこにありました。
宗達などの日本画、宗教的意図についても論文があり(私達はつい、「かわいいー」みたいな反応をしてしまいますが)当時の深刻な問題、書き手とクライアントが混めた思いについて分析し、丁寧に解説してくださいます。信長、高山右近、キリシタン文化・・教科書で学ぶのとは違う、権力者たちの想いがつまった工芸品なのでした。
古九谷の文様は、私があつかう着物の図案では描いたことがないタイプ、とくに「牡丹柄」については、花のふちが西洋の紋章の形になっており「「やはり現物の皿を見なくてはいけない」と思いました。
おもいきって、村瀬先生にご連絡し、なんとかお目通りお願いできないかということでお会いすることができました。
文様の謎を伺いたい・・
素人が感じた謎にも、丁寧に答えてくださいました。あらためて刀剣、琳派、工芸、そして古九谷の皿を拝見しました。独特の美学はどのようなジャンルに分類したらいいか、私の経験ではなかなか捕られず、伺ったところ「反徳川の精神」、江戸でも京都でもない精神が全てに渡って貫かれているということでした。美術館には、陶器をはじめ、本阿弥光悦や宗達による屏風絵や刀剣、その時代の加賀の繁栄をうかがえる素晴らしい名品ばかりでした。
このような文様こそ、人生の門出、振袖にふさわしい柄だと感じております。
皆様にも、ぜひ古九谷の現物を見ていただきたいです。
成人のお祝い、最高の文様とコーディネートでお迎えください
生 地表地ポリエステル100%/裏地(八掛・胴裏)ポリエステル100%
サイズS、Sc、M、Mc、Lサイズ
ルミロック「記憶の森のバンビ」を振袖に再構築し制作いたしました。
生 地表地ポリエステル100%/裏地(八掛・胴裏)ポリエステル100%
サイズS、Sc、M、Mc、Lサイズ
お客様が自由に考え、もっとも自分らしい着こなしを組み立てる。それが着物らしい文化と思います。
「ルミロック」には、日本の古典的意匠をアレンジしたもの、クリエイションしたもの、注文によってイメージされた図案の柄があります。浴衣で145柄、デジタルで50柄ほどオリジナル図案があります。
振袖につきましては、2020年の外出自粛期間中に作成した上記新柄2柄にくわえ、デジタルデータで作成した図案の中からお選びいただくことができます。CGで確認後、振袖にお作りいたします。帯などコーディネートのご相談もうけたまわります。
成人式だけでなく、袋帯として長くお使いいただける帯もオリジナルでご用意しております。
成人を祝う儀礼は古くからあり、元服という通過儀礼がありました。
昔は子供のうちになくなる人も多く「霊界に近い、魂がおちついていない子供時代」が無事過ぎて、「人間として認められる」元服は喜ばしいものです。21世期の今でも、地方公共団体が主宰する成人式に出席するだけではなく、たとえば神仏に感謝をつたえ、あらためて立派になったご子息、ご息女を思い、そして成人されるご本人も、違う空間で自分を見直す時に、着物がなんらか役割を果たせたらと考えております。
展示販売会では、実際の布にそまったサンプルのなかからお選びいただき、振袖や二尺袖の着物をおつくりすることができます。(S、Sc、M、Mc、Lサイズ 仕立て上がり本体価格。仕様によって価格が異なります)
二尺袖(袴用)の着物も承っております。金額など詳細は会場またはメール info@rumirock.com にてお問い合わせください。
絹をつかいながら、洗える着物JETシリースの柄、ライン薔薇を振袖にするとこうなります。
モノトーンが好みの方へ。
同じ柄で訪問着、二尺袖の着物をお作りできます。なお、正絹での制作もうけたまわっております。
小紋柄「黒牡丹」を振袖にいたしました。上前は違う色の花を配置しました。
同じ柄で訪問着、二尺袖の着物をお作りできます。正絹での制作もうけたまわっております。
夏の文様として考えられた銀河系、宇宙柄です。絵羽づけにして、振袖に構成いたしました。
同じ柄で訪問着、二尺袖の着物をお作りできます。なお、正絹での制作もうけたまわっております。
ルミックスデザインスタジオは、1990年より、東京の着物図案制作会社にて手書きの図案制作を学び、着物の企業向けに図案を制作してきたことが元となっております。呉服チェーン店や、京都や新潟の産地、問屋企画を中心に、小紋・つけ下げ・訪問着・振袖・打掛の図案を制作しておりました。注文品を描くだけでなく、提案の図案を制作しておりましたので、のびのびと、たのしく図案制作しておりました。
ただ、図案というものが最終製品にまで届かないことも多く、最終製品に図案の意図を伝えたいと思い、印刷の版下データのように図柄を作成できればということで、思い切ってパソコン一式を購入し、図案を制作したのが1991年です。出始めの転写プリントで布を作った時は「なにかが始まる」と思い、着物のみならず「衣服という産業が手の中に入る」感覚はとても高揚感がありました。ただ、それが仕事に生きるにはしばらく時間が必要でした。コスト、スピード、なによりも画力と商品企画力、営業力が足りませんでした。
その図案制作会社から独立してからは、主に東京のメーカーの仕事をうけてきました。踊りやお揃い手拭いなど、古典的な図柄をはじめ、百貨店用浴衣デザインなど、アパレル系の浴衣ブームに乗るかたちで、国内生産・海外生産用の浴衣図案を制作しておりました。
当時はパソコンにて作成する人もあまりおらず、発注は全て受けるかたちで、すこしでも楽しい浴衣を着て欲しい思いで毎日忙しく制作しておりました。
それと並行して、一般の着物好きの方や芸能関係の方の特注品に対応しているうち、注染浴衣を中心とした自主制作のゆかた、「ルミロック」が生まれてきます。産地の職人ではなく、着物の先生でもない「一図案屋」ができることはかぎられており、楽しいものづくりに賛同された、多方面の方々があつまってきました。販売、ネットショップ、生地メーカー、染工場、縫製の匠や呉服店の皆様です。
自らの成人式はどうだったかというと、埼玉の養蚕農家だった母から受け継いだ、京都らしい型友禅のボタンの小紋の着物を着て写真を撮りました。戦前の色使いながら濃い紫ピンクと縁取りの青緑のコントラストが見事で、一般的な商品ながら、その時代の職人の意気込みがかんじられる着物でした。進路もはっきりせずいろいろが不安定な時期でしたが、着物を着たという良い思い出となっております。
量産型の思考でなく、個人のこだわりが生きるような生産の仕組みについて、いい方法がないか考えます。
図案は下手でもいい、人が着て活きる着物、良い図案といわれるような——アンティークの名品を作った人たちや、発注した方々の思いを裏切らないものづくりはどうしたらいいのか。たぶん、昔は、発注する方と作る人、動かす人たちは、ダイナミックなやりとりがあるのです。双方言いなりではなく、面白いと思うことをふんだんに交換すること。違いを楽しむこと。ある程度できあがったら、その美学を生かすこと。
昔のように、製作費を考えず1点ものを制作するというのはハードルが高いことです。
そして、人は量産品だけに囲まれて生きられるほど強くないとおもうのです。
その時代に合わせて表現する。やり方を変える。
ルミロックの振袖は、そのようなしくみの始まりになればとおもいます。
どうぞ皆様も、ご参加いただけたら幸いに存じます。
ルミックスデザインスタジオ
芝崎るみ