デザイナー・芝崎るみ&ルミロックストア店長・金子一昭インタビュー
◎構成・文 佐藤由衣
宇宙やネッシー、おとぎ話をモチーフにした柄など、毎シーズン、ユニークな浴衣を展開しているルミロック。浅草・吉原にあるアトリエを訪ね、図案が生まれるまでの過程や、新作に込められた思いなどをお伺いしました。
毎回新しい挑戦をするのがルミロック
—-今年で12シーズン目を迎えました。ブランドとして大切にしてきたことを教えてください。
芝崎:図案は毎回同じサイズの中で表現をするのですが、柄の描き方やグラフィカルな組み立てなど、毎回新しい表現に挑戦するようにしています。柄の細かさや出したい風合いによって、注染・捺染・デジタル染色という3つの染め方を使い分けています。一番多いのは注染です。昔ながらの染め方ですが、裏まで染まるので、浴衣みたいに裾が翻るようなものを染めるのに適していますね。
–お2人は仕事をどう分担しているのでしょう?
金子:芝崎さんが図案を描き、注染の場合はその図案をもとに僕が型紙を彫っています。
芝崎:図案は主にマーカーと筆で描きます。描いたものをパソコンに取り込み、プリントアウトして実際の状態を見ながら修正して、完成したものを金子さんに渡します。
金子:筆で描いた線がかすれている部分もあり、そこは調整が必要です。かすれた部分も忠実に彫っていると終わりませんし、細かい線は染まらないことも多い。なので、図案の雰囲気を崩さないようバランスを見ながら、仕上がりをイメージして線を彫るようにしています。
–型紙にはどのような紙を使っていますか。
金子:最初の頃は柿渋染めの紙を使っていましたが、今はフィルムに入っている合成紙を使っています。柿渋の方がサクサクと気持ちよく彫れるんですけれども、何年かすると劣化してしまうので、現代的な素材を取り入れています。ルミロックの浴衣は100柄以上ありまして、10年以上経つ型紙もあります。フィルムに近い紙だとけっこう長く保ちますね。
現実とフィクションの境を写し取る
–ルミロックの柄はユニークなものが多いですね。図案のアイデアはどこから?
芝崎:ネタ帳があり、そこに日々気になることをメモしています。それとは別に「こんな表現が面白いのでは」というグラフィカルなアイデアが頭にあります。ネタとグラフィカルなアイデアの両方が掛け合わさったときに、初めて図案の全体像が見えてきます。
–ネタ帳にはどんなメモが?
芝崎:たとえば「アポロ計画」という図案のネタは、1969年にアポロ11号が月へ到達し、1970年に大阪万博があり、「そのとき“月の石”が展示してあったよねえ」という話を呉服屋さんと話していたところから生まれました。月面着陸は実はスタジオ撮影なのではという捏造説が持ち上がり、今は本当に月に到達したという話に揺れ戻っていますよね。事実だと言われていたものも、見方を変えれば不確かになる。それを図案にしたら面白いと思ったんです。
—ジャッカロープやネッシーなど未確認生物を描いた図案もありますね。
芝崎:フィクションと現実との狭間を考えるのが好きなのでしょうね。一方で、ただ美しいから、迫力があるからという理由で描くときもあります。「バッファロー」は、西部劇などで牛がワーッと走ってくる情景が面白いと思って描いた柄です。
捕鯨の歴史は、父親の思い出
–毎シーズン意識して取り入れているテーマはありますか。
芝崎:動物の大群は毎年描いていますね。今シーズンは、日本画に見られるさまざまな種類の鯨を描きました。波間にはむかしの捕鯨船が漂っていて、今にも転覆しそうになっています。私の父親が戦後すぐ、南氷洋で鯨を捕りに行っていたんですよね。そのころはもう近代捕鯨ですが、命がけの様子を聞いていたので、鯨捕りについては憧憬があります。
金子:この図案は線が細くて苦労しました……。
芝崎:毎年一つくらいは、「金子さんいじめの図案」が入っていますね (笑)。
「群鯨図」
–今年の「石川五右衛門」はルミロックらしい柄じゃないですか? 配色がこれまでにない展開で面白いですよね。
芝崎:歌舞伎の衣装をイメージして、紅蓮の炎と艶やかなボタンの花を描き、華麗な雰囲気に仕上げました。
–なぜ五右衛門をテーマに?
芝崎:ミステリアスなところに魅かれたからでしょうか。盗賊が釜茹でにされたという記録は残っていますが、何を盗んだかは分かっていないんですよね。また、2016年に亡くなった根津甚八さんを偲ぶ意味もあります。1978年代に放送された『黄金の日日』という大河ドラマのなかで、根津さんが演じていた五右衛門は大変魅力的で、エロチックでエキサイティングで、忘れられませんね。まだ子供時代ですが、衝撃的でした。
–今年は朝顔の柄もありますね。一見普通の花の柄のようですが……
芝崎:ルミロックでストレートな花柄の浴衣を出すことはあまりありませんが、今年は朝顔を描きました。この浴衣には、実は葉っぱが一枚も描かれていません。その理由は歴史的な逸話にあります。デザインや道にはエゴイスティックな一面があります。こちらの想いはいろいろありますが、着る方には、きれいな朝顔だなあ、と思って着ていただけたらと思います。夏っぽいさわやかな風情が出せたかと思います。。
「利休朝顔」
浴衣を着ることで起こる事柄を楽しんでほしい
–今年の新作のなかで、ずばりオススメは?
金子:毎年そうですが、僕らの方から「これがオススメ」と言うことはあまりないんです。一つ一つの柄を面白がって見てもらえたらいいと思います。
芝崎:夏の過ごし方も、人それぞれ違いますからね。シックに着こなすなら鯨の柄がいいと思いますし、ハジけたい方は五右衛門柄が楽しめるのではないでしょうか。今まで浴衣に興味がなかった人にも、着て体験して味わってもらいたいですよね。浴衣を着て出かけた先で友だちができたり、話が盛り上がったり、ルミロックをきっかけに色々なことが起きたら楽しいなあと。
–たしかに浴衣を着ていると、周りから褒められたり、「すてきですね」と声をかけてもらったりすることが多くあります。ルミロックのユニークな柄は、そのような機会をたくさん運んできてくれそうです。この夏は、場の雰囲気やその日の気分に合わせて、遊び心をもって浴衣を着てみたいですね。
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PHOTO: mao ishikawa